古谷惣吉連続殺人事件




【事件概要】

 1965年11月、滋賀、福岡、神戸で相次いで老人が殺害されているのが見つかった。警視庁ではその手口から同一人物によるものと推定、12月9日、広域重要事件105号に指定した。
 その2日後、京都市伏見区で2人の廃品回収業者が絞殺死体で発見されたが、この現場から強盗殺人の前科のある古谷惣吉の指紋が検出された。このため古谷は指名手配された。

 12月12日、兵庫県西宮市の海岸で、芦屋署員2人がパトロールをしていたところ、怪しい人影を発見。職務質問された男は古谷だった。古谷は直前に廃品回収業者2人を殺害しており、現行犯逮捕となった。
 逮捕後、古谷は大阪府高槻市でも男性を1人殺害したことを自供。1ヶ月ほどの間に8名の初老男性を殺害していた。


古谷惣吉


【広域重要事件105号】

 1965年11月9日、滋賀県大津市の海水浴場で、管理人の大島馬吉さん(59歳)が絞殺されているのが発見された。

 さらに同22日午後5時半頃、福岡県粕屋郡新宮町上ノ府(通称・ひばりヶ丘)の自宅で、英語塾講師・黒木善太さん(50歳)が何者かに刺殺されいるのを帰宅した妻が見つけた。現金5000円、着衣、食パン、ラジオなどが盗られており、代わりに現場にはネーム入りのズボンが残されていた。それは「大沼伊勢蔵」という男のもので、滋賀の大島さん殺害現場に落ちていたものも、大沼のものだった。
 29日、捜査員が神戸市垂水区の廃品回収業を営む大沼伊勢蔵さん(57歳)の小屋を訪ねたところ、すでに大沼さんは殺害されているのが見つかった。大沼さんの遺体は死後1ヶ月は経過していた。

 警視庁は12月9日、滋賀、福岡、神戸にわたる3件の老人殺害事件をその手口から同一人物によるものと推定、広域重要事件105号に指定した。
 
 12月11日、今度は京都市である。伏見区の鴨川橋下バラックで廃品回収業者・市村清治さん(60歳)の絞殺死体が発見された。さらに3時間後、同区中島河原町の京川橋下のバラック小屋でも同・広渡平三郎さん(67歳)が殺されているのが見つかる。
 この現場からは前科のある古谷惣吉(当時50歳)の指紋が検出された。古谷が指名手配されたのはまもなくのことだった。


【古谷惣吉の人生】

 古谷は1914年、長崎県上県郡上県町(対馬)で生まれた。4歳の時に母が他界し、農業と魚行商をしていた父は新天地を求めて朝鮮にわたったため、親類に預けられた。
 小学生時代の古谷は友達の物を盗ったり、下級生をいじめるなどしていた。喧嘩をすることなどもしょっちゅうだったという。

 10歳の頃、帰国した父親が再婚。再び父の元に戻った古谷は継母と暮らすこととなったが、その仲は険悪、いじめられていたという。家に寄り付かないようになり、盗みをして暮らすようになったという。小学校を出てすぐに、一家は広島に移った。
 
 中学2年の時、教師を殴り退学。

 1930年、16歳の古谷は窃盗で岩国の少年院に入り、以後、窃盗、詐欺、恐喝未遂で出たり入ったりを繰り返した。16歳から51歳までに34年も獄窓で暮らしている。

 1951年の5月と6月、共犯者と福岡で1人暮らしをしていた人を金目当てで襲い、2件で2人を殺害していた。
 共犯の坂本登は主に見張りをしていただけで、殺人を犯したのは古谷だったが、裁判ではなぜか坂本が主犯ということにされ死刑判決を受けている。古谷はその頃、恐喝で明石刑務所に服役しており、罪を問われたのは坂本の死刑執行後のことで、証拠不十分で懲役10年を言い渡された。

 1964年11月9日、熊本刑務所を仮出所。50歳の再出発だった。しばらく熊本市内の保護更生保護施設にいたが、翌年5月5日に出ていった。


【なぜ独居老人を狙ったのか】

 指名手配されてすぐの12月12日、古谷は兵庫県西宮市で逮捕された。この日、古谷は海岸の小屋に住む廃品回収業の老人2人を襲い殺害した後、巡邏中の芦屋署の警官に職務質問を受け、現行犯逮捕されたのである。
 事情聴取を受けた古谷はあっさりと犯行を認めた。滋賀、福岡、神戸、京都、西宮の事件7人の他に、11月5日に大阪高槻市で建設作業員(53歳)を殺害したことも自供した。


 1965年10月29日、古谷はまず神戸市垂水区の廃品回収業・大沼伊勢蔵さん(57歳)を絞殺した。大沼さんの遺体はなかなか発見されず、前述の通り、11月29日になって発見されている。

 11月5日、大阪府高槻市南芥川町の国道170号線沿いに住む建設作業員・山本政治さん(53歳)をカッターシャツで首を絞め殺害殺害。

 11月9日、滋賀県大津市の海水浴場管理人・大島馬吉さんを絞殺。

 11月22日、福岡県新宮町の英語塾講師・黒木善太さんを刺殺。

 12月3日、京都市伏見区で廃品回収業・市川清治さん(60歳)、広垣兵三郎さん(67歳)を殺害。遺体発見は11日。

 12月12日、兵庫県西宮市の堀切川河口の小屋に「飯を食わせてくれ」と入ると、廃品回収業・奥村善太郎さん(69歳)とその知人の山元嘉太郎さん(51歳)に「泥棒!」と騒がれたことから、持っていた手斧で殴って殺害した。直後に逮捕された。

 この殺害のほとんどは、「飯を食わせろ」「泊まらせろ」と言って断られたり、騒がれたりしたためだった。古谷は被害者達と殺害の前には話しこんだりしていたが、カッとなると、あっさり殺した。彼らに狙いをつけたのは、路上で出会う彼らが最も身近な存在で、1人暮らしで小金を貯めこんでいると思っていたからだった。
 

【裁判】

 1971年4月1日、神戸地裁で死刑判決。

 1978年11月28日、最高裁で死刑が確定した。

 1982年12月2日、古谷はかねてから反目していた同窓の死刑囚(当時39歳)に隠し持っていたハサミで襲いかかり、1週間の怪我をさせた。10人を殺してきた男の、最後の殺人未遂だった。ちなみに当時、死刑囚が処刑されると仲間の死刑囚が拘置所内の仏間に集まり供養するという極刑囚集会が行われていたが、この一件で廃止となった。

 1985年5月31日、大阪拘置所で死刑執行。享年71。

 死の前、古谷はこんな歌を残している。

厚恩を背負いてのぼる老いの坂 重きにたえず涙こぼるる


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≪参考文献≫

葦書房 「実録 福岡の犯罪 下」 フクオカ犯罪史研究会・編
アスペクト 「実録 戦後殺人事件帳」
河出書房新社 「現代日本殺人史」 福田洋・著、石川保昌・編
講談社 「強殺 連続八人殺害広域捜査105号事件」 福田洋
光文社 「大阪拘置所粛正刑務官」 藤田公彦
神戸サンケイ新聞社 「伏流 ひょうご事件風俗史」 兵庫県警編纂
作品社 「犯罪の昭和史 3」 作品社・編
三一書房 「日本死刑白書」 前坂俊之
社会思想社 「20世紀にっぽん殺人事典」 福田洋 
ジャパンミックス 「猟奇殺人のカタログ50」 CIDOプロ・編
自由国民社 「死刑に処す 現代死刑囚ファイル」 佐久間哲
春秋社 「<物語>日本近代殺人史」 山崎哲
新人物往来社 「別冊歴史読本 新・殺人百科データファイル」
新潮社 「日本の大量殺人総覧」 村野薫
大洋図書 「日本震撼事件 戦後殺人ファイル100」 日高恒太朗
宝島社 「別冊宝島 殺人百貨店 日本人はどういう理由で人を殺すのか?」
宝島社 「別冊宝島 死刑囚 最後の1時間」
宝島社 「別冊宝島 猟奇事件ファイル 【悪魔と呼ばれた人間たちの犯罪履歴書】」 
筑摩書房 「犯罪紳士録」 小沢信男
東京法経学院出版 「明治・大正・昭和・平成 事件犯罪大事典」 事件・犯罪研究会・編
同朋舎出版 「TRUE CRIME JAPAN 連続殺人事件」 池上正樹
ぶんか社 「警察庁広域重要指定事件完全ファイル」
文藝春秋 「殺人百科」 佐木隆三
毎日新聞社 「シリーズ20世紀の記憶 高度成長 ビートルズの時代 1961-1967」
夕刊フクニチ新聞社 「福岡犯罪50年史 戦後編」 夕刊フクニチ新聞社編


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